不意にBGMのボリュームが上がると同時に客電が落ちる。いつもなら歓声があがるところだがフロアに集まったオーディエンスたちは思い思いのスタイルで手をあげてメンバーたちを迎え入れる。本日がツアー・ファイナルということもあるのだろう。オーディエンスの様子からは、コロナ下の制限の中でも精いっぱいの表現でメンバーたちを迎え入れたいという意思が強く感じられる。
尋が“行けんのか!遠慮するな、本気でかかってこい!”と煽ると「Life is Once」で公演の口火が切られた。イントロからゴッリゴリの選曲。楽曲の展開に合わせて、頭や手を振ったり、その場で揺れたり、オーディエンスそれぞれが自分のスペースで思い思いのスタイルでライヴを楽しみ始める。尋は“それで全力か!?”とMCでガンガンに煽り倒し、共に楽しもうとばかりにオーディエンスの背中をぐいぐいと押していく。煽る以上はということなのか自身もキレキレのシャウトを放ち、さらにギアを上げていく。まるで相互作用のように1曲ごとにバンドのパフォーマンスとオーディエンスの盛り上がりが一体感を増し、ボルテージが高まっていくのが分かる。
シフトアップしたノクブラのリズムを支えるのはNatsuの正確に叩ききる圧巻のドラム・ワーク。そこにMasaのうねるような極低音のベースとYu-taroの丁寧なギター・ワークが低中音域からバンドのサウンドを支え、Valtzの華麗なギター・ワークと尋の縦横無尽のヴォーカル・ワークが思う存分暴れまわる。復活直後のころのような張り詰めた緊張感とはまた違う、ツアーを経た信頼の結びつきに支えられたバンドのサウンドが見るものを次々にライヴの熱量に取り込んでいく。「DEAD END」では“今年1番のジャンプを見せてみろ!”と尋が煽り、オーディエンスはしゃがんだ状態から一斉に恒例のジャンプ。みんなで全力で楽しむために協力しあっている光景からは、声は出せず場所も移動できないという制約はあるものの、許される範囲の中で全身を使って最大限楽しんでいることがひしひしと伝わってくる。その思いを感じ取ったのか、Masaは一緒にライヴを作ってくれるオーディエンスへの感謝をMCの中で述べつつ、“ツアーの感じ、ライヴの感じを確かめながらやっている”と正直に明かした。今の世情そして現体制での初のツアーという前提もあり、より日常に近いツアー形式でのライヴの在り方をバンドとして試行錯誤しているのだろう。
MC明けからは「Malice against」、「REM」、「VENOM」、「THE ONE」と圧巻のグルーヴでライヴハウスを一つにまとめあげ、メンバーはステージを降りた。そこかしこから手拍子が沸き上がり、アンコールへと突入。手拍子に迎え入れられた格好のメンバーたちは少しおどけながら再登場。MCでは来年5月より行われるツアーの開催を告知し、ファイナルは渋谷CLUB QUATTROとなること、さらにはツアーに先駆けてフル・アルバムをリリースすることも明かされた。“ここのところ、ミニ・アルバムやシングルが多かったけど、新しいものをぶつけたい”という尋の言葉からは次のアルバムへの静かに燃える意欲が感じられる。ゴリゴリの激重デスコア・チューン「Pleasure of Torture」でアンコールをスタートしたあとは、「Liberation」で“コールに応える”尋のパフォーマンスや、フロント3人でロールダンスを見せるなど、楽しませる方向も提示したうえで、「Reviver」の超タイトな演奏で2時間近くに渡った濃密な公演を締めくくった。
今回のツアーは終わってみれば、NOCTURNAL BLOODLUSTの懐の広さを改めて見せる機会になったと言えるだろう。復活後最初の公演となった“NEW WORLD ORDER”(2021年5月)では、直前の配信ライヴも相まってまるでライヴを一つの作品として捉えたような正確無比なパフォーマンスを見せ、全12バンドとの対バン形式で6日間に渡って行った“6DAYS OF CHAOS”(2021年9月)では共演者を圧倒する限界ギリギリの音圧を引き出すライヴ巧者ぶりを見せつけるパフォーマンスが印象的だった。一方、今回のツアーは過去や他者との比較から離れ、純粋に“ライヴを楽しむ場”をオーディエンスと一緒に作りあげる“楽しさ”が際立つライヴになっていた。5人による生身の音の化学反応を基軸としたライヴは、たとえ同時期の同じ会場であっても決して同じライヴにはならない。ライヴやツアーが日常になる日をすでに見据えて、バンドは次のステップの準備を始めたのだ。(激ロック 米沢 彰)